『組版/タイポグラフィの廻廊』(白順社)に、「秘」は本来は「祕」で「秘」は誤字であり、単なる誤字が由緒ある誤字になったのは王羲之が誤字である「秘」を書いたからだ、と書いた。
このように「のぎへん」と「しめすへん」は古来たびたび間違われている。
ひらがなも同様で、たとえば「わ」は「和」をくずしたものであり、「れ」は「礼」をくずしたものだから、左側の偏の部分は本来は違うかたちになるべきだ。

上の図版は「元永本古今集」の「われ」だ。

(丸1)が「わ・和」の基本形で、(丸2)が「のぎへん」に最低限必要な部品でこれを「実画」という。「禾」の「ノ」と縦線が一本の縦線に略され、次に横線を書き、つづけて左はらいを書く。右のはらいは略される。(丸3)の点線は実画と実画をつなぐ「虚画」だ。
(丸4)が「れ・礼」の基本形で、(丸5)が「しめすへん」に最低限必要な部品。「示」の二本の横線と縦線を一本の縦線に略し、つづけて左はらいを書く。右のはらいは略される。
「わ・和」の「のぎへん」の横線がさらに略され、「しめすへん」と同じように書かれることはあるが、一画増やして「しめすへん」を「のぎへん」のように書くのは間違いだ。
「しめすへん」の多くは(丸6)のように最短距離で書かれるが、まれに(丸7)のように大回りすることもある。これが「のぎへん」とまちがわれる原因である。だが次のように上から回り込んでくることはない。

ほとんどのフォントは「わ」と「れ」の偏を書き分けていないが、書き分けている数少ない例を示す。

これらのフォントは書き分けているだけでも立派なものだが、この中で最も好ましいのは築地体後期五号仮名(大日本スクリーン)だ。このフォントだけは「れ」の虚画が太くなっていない。

アンチック Std(モリサワ)は書き分けているのに、アンチック 学参フォント (モリサワ)は、書き分けていない。小学生の教科書用の教科書体も書き分けていない。ちゃんとした字を教えてほしいなあ。
posted by トナン at 17:17| 埼玉

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