2008年05月23日

亜哀愛悪握圧扱安暗案以

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「亜」の常用漢字の字体は宋代から書かれ始めたと思われる行書の字体。
「哀」は下部の縦線のハネに注意。書写体が字典体に近いというめずらしい例。
「愛」の書写体は「心」の最終画と左ハライが合体。
「悪」の書写体は「西+心」。これは顔之推の『顔氏家訓』「書証篇」にも載っている異体字。
「安」の書写体はうかんむりの点と女の一画目が合体。
「暗」は一画目の形に注意。字典体が横線なのは説文の例示字体が横線だから。
「案」の書写体で横に伸ばすのは「女」の横線だけ。「木」は左右に払わない。
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2008年05月13日

しんにょうの点の数はいくつ?

先日、府川充男さんに「大熊君、本に『しんにょうの点は、くねる1点かくねらない2点』って書いてたけど、弘道軒清朝とか漢籍の版本には2点でくねる字あるよね」とするどいご指摘をいただきました(汗)
「くねる2点しんにょう」については、手書きの字にはほとんど出てこないので、例外ってことで本では割愛したんですが、もうちょっとくわしく書きます。

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弘道軒清朝の四号のしんにょうの部首の字種です。
「くねる1点しんにょう」と「くねる2点しんにょう」が混ざっています。

もう一度、古代文字から見てみましょう。

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しんにょうは「彳(テキ)」と「止(シ)」を合わせたものです。
「彳(テキ)」は「行」の左半分で「行く」という意味。
「行」は十字路の形です。
「止(シ)」は「止まる」という意味ではなくて、殷代は「進む、歩く」という意味です。
「止(シ)」を2つ合わせた字が「歩」です。
つまり、しんにょうは「行く、進む、歩く」という意味です。

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「通」を例にとって見てみましょう。
甲骨文ではまだ「止」がありません。
金文で「止」が加わってやっと「しんにょう」の部品が揃います。
篆書の手書きで「止」の最終画が右に伸び、「にょう」になります。
隷書で「止」が略されてやっと「しんにょう」っぽくなります。
亀の甲羅や骨に彫られたり、金属に鋳込まれたり、石に刻まれていた文字が、筆で手書きされることによって字形が劇的に変化します。これを「隷変(れいへん)」と言います。

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隷書のしんにょうを3タイプあげました。

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Aがもっとも基本的な隷書のしんにょうです。
「彳」も「止」も右上から左下に向けて書かれています。
これをつなげても楷書のしんにょうのようにはなりません。

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「彳」が「さんずい」のように左から右に書かれるようになります。
これは書いてみると見た目以上に大きな変化です。
「止」は右上から左下に向けて書かれています。
これが「2点でくねらない」しんにょうの元祖です。
これの2点目からつづけて書くと「1点でくねる」しんにょうになります。

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「彳」を左から右に書き、「止」を左上から右下に向けて書いたしんにょうです。
これが「2点でくねる」しんにょうです。

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手書きでは「2点でくねる」しんにょうは希です。

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隷書では、2点のしんにょうも希にあります。
なお、行書ではくねりを略して書くこともありますし、草書では点は略されます。
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2008年05月07日

字体インタビューのフォーマット

字体インタビュー」をご覧になった方から「自分もインタビューしたいのでフォーマットをください」という連絡をいただいたので、PDFをアップします。
jitai-inta.pdf
ご協力お願いします。

なお、今回修正した点が2カ所あります。
「会」と「黒」は点々になるか横線になるかを調べたかったのですが、重複するので「黒」を「飲」にかえました。
「狭」と「来」は人人になるかどうかを調べたかったのですが、重複するので「狭」を「塩」にかえました。

インタビューするときにお願いしたいことがあります。
次の2種類のインタビューをしていただきたいのです。

1)鉛筆書きで習った字を書いてください。
2)筆書きで習った字を書いてください。

なぜかというと、昭和10年以降、硬筆では文部省活字の字体を習い、毛筆ではAの系統の字体を習ったからです。
つまり、硬筆と毛筆では違う字体を習っているのです。
それをなるべく混同しないように調べていただきたいのです。
僕が試しにやった「字体インタビュー」では混同しているのではないかと思われる箇所がいくつかありました。

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上の2つで文字自体を思い出せない場合は、これを使ってください。

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文部省活字にはAの系統の字体と、Bの系統の字体が混じっています。
たぶん「衛」「横」「塩」「飲」「北」の5字は硬筆でも文部省活字の字体を書くとおもわれます。
「偽」の右上の「ノ」の下の点3つの向きはどう書くか。
「遅」のしんにょうの点の数と旁の横線4つをどう書くか。
「秘」をしめすへんで書くか、のぎへんで書くか。
なども興味深いところです。
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「日本国憲法」の原本の字体

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「正統なものには正統な字体を使う」という唐代以来の伝統か、筆でBの系統の字体を書いているが、細かく見るとAの系統の書き方が混じっている。

「総意」の「総」は全体的には干禄字書で正とされている字体だが、糸偏の下部はAの系統の書き方。
「深」の右下を「木」ではなく、「ホ」に書くのはBの系統ではない。
「條」の右下も「ホ」なのでBの系統ではない。
「會」も全体的にはBの系統だが、縦線が上の横線まで達しているのはBの系統ではない。
「経」も全体的にはBの系統だが、糸偏の下部はAの系統の書き方。

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御名の「裕」の「谷」が左右に分かれているのは、Aの系統の書き方。

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肩書きをBの系統の字体で書いているが、細かく見るとAの系統の書き方が混じっている。
「総理大臣」の「総」は干禄字書で正とされている字体だが、糸偏の下部はAの系統の書き方。
「兼」の最後の2画は左右に払わず、点々で書いている。これはAの系統の書き方。
「爵」はAの系統の書き方。

「木」「林」の縦線はいずれもはねている。「木」「林」の縦線をはねて不正解になった生徒諸君は、教師に「日本国憲法」の原文を見せるべし。

署名はAの系統で書いている。
吉田茂の「吉」は「つちよし」。これはAの系統の書き方。
しんにょうは2点で書いている。これはB系統の書き方。
運輸の「輸」はBの系統の書き方。

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「蔵」はB系統の字。
「徳」はA系統の字。

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活字は、秀英体の四号明朝か。
日本国憲法の公布は当用漢字字体表の告示前なので、当然旧字体で印刷されている。

日本国憲法についての映画で「日本の青い空」というのを見たことがあって、「憲法研究会」というのが草案を作るのだが、その研究会の張り紙に「憲法研究会」と「会」が現在で言う新字体で書いてあった。あれは実際にそのように書いてあったのか、それとも制作者のミスだったのだろうか?
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2008年05月05日

Aの系統とBの系統-04

伝統的筆記体と正字という言い方を、Aの系統とBの系統に改めました。

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説文の字体は甲骨、金文に見あたらない。
韓仁銘は説文の字体。
顔真卿はAの系統とBの系統の両方を書いている。
Bの系統に揺れることもある欧陽通だが、この字ではAの系統を書いている。
文部省活字はこの字に関してはBの系統をとっている。
当用漢字字体表の字体は、草書をとりいれたもの。
楷書か行書の字体を採るべきだったのではないか。
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「似非楷書」江守賢治さんと府川充男さん

『江守賢治国語国字研究所 研究紀要 第1輯』(1997年6月)に府川充男さんの『組版原論』の内容が引用紹介されています。
府川さんの築地電子活版のサイトから引用します。

なお、築地電子活版のトップページはこちらですが、もれなく「インターナショナル」が鳴るので、仕事中の方は音量を絞ってご覧ください。

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戦前の文部省活字には、Aの系統の文字とBの系統の文字が混ざっています。文部省活字は昭和10年から国定国語教科書に採用され、硬筆手本としても使われました。ただし、書写(毛筆)の授業ではAの系統の文字を教えていたようです。それは江守さんの『解説 字体辞典』および府川さんの『聚珍録』の「第一篇 字體」に掲載されています。

実は書道字典の多くは漢和辞典と逆で、Bの系統の文字を無視しています。「干禄字書」「五経文字」「九経字様」「開成石経」顔真卿の「竹山聯句」などが載っている書道字典は希です。ただし見出しの活字はBの系統の文字を使っていますが。

上記の本には、子供の書き初め大会で、Aの系統の文字を書いてあったら落選、という話がありますが、大人の書道展では逆で、Bの系統の文字を書いていったら落選するかもしれません。

書道字典は、Bの系統の文字も載せた上で「書家がこの字体を書くと恥ずかしい」というようなことを表記した方がよろしいかとおもいます。

  
posted by トナン at 17:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 文字あれこれ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月02日

古典文字字典

「甲骨文編」「金文編」「古璽文編」「●(勹+缶)文編」「先秦貨幣文編」「侯馬盟書」「楚帛書」「秦漢魏晉篆隷字形表」の8書を合冊改編して日本語の索引をつけたもの。

「甲骨文編」「金文編」「古璽文編」なども持っているのだが、とにかく引きにくい。
日本語の索引がついたらいいなあ、と思っていたらこれが出版された。本当にありがたい字典である。

版元ではすでに在庫切れ。
古書でみつけたらすかさず買うべし。
発売時の価格は20,000円だった。

posted by トナン at 22:24| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめの書体字典 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

中国璽印類編

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本邦篆刻界の第一人者・小林 斗〓(アン)氏が、27年の歳月をかけてコレクション・編集・製作した宝典。
璽印の中に使われている文字だけを掲載しているのではなく、印影そのものを掲載しているので、印譜として考えても貴重な資料。

まだ版元に在庫はあるらしいので、お早めに購入すべし。

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字体インタビュー

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Kさん
性別:女性
終戦時の年齢:満11歳(昭和9年生まれ)

テスト後のインタビュー

私:「衛」はこう書いていたんですか?
K:そうです。
(明朝体の旧字体を示して)
私:こんな字じゃなかった?
K:そんな字は書いたことないです。
私:「横」はこういう字だったんですか?
K:そうです。
(明朝体の旧字体を示して)
私:こういう字じゃなかった?
K:そんな字は書いたことないわ。
私:「穏」はこう書くんですか?
K:そうだと思うんですけど。
(明朝体の旧字体を示して)
私:ここに「工」は入ってなかった?
K:そんな字は書いたことないですね。
私:「會」は中身が点々になる?
K:そう、点々を書いてた。
私:「偽」はこう書いてたんですか? 点の向きもこう?
K:「ノツ」って覚えてたから、こう書いてました。
私:「狭」はこう書いてたんですね。
K:そうです。

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私:「恵」はこう書いてたんですね。
K:そう。下に「ム」でもない変なのが付くんです。
私:「軽」はこう書いてたんですか?
K:「茎」もこんな風に書いてました。「く」が3つか2つかよく間違えてました。
私:「虚」の下の方はカギカギに折り曲げて書いてたんですか? 点々じゃなくて。
K:そうです、カギの向きが上向きだったか下向きだったか迷いました。
私:「撃」は?
K:たしかこんな風だと思うけど、間違えてるかも。
私:「黒」は点々を書いてた?
K:点々を書いてた。
私:「関」はこんな字?
K:こんな風な機関銃みたいな形を中に書いたんだけど思い出せない。
(明朝体の旧字体を示して)
私:下の方はこんな風にカギカギに書いた?
K:そうそう、こんな風に書いた。
私:「状」の左はこんな風にカギカギに書いた?
K:こんな風にカギカギに書いた。
私:「真」はこう書いたんですね。
K:下の直角に曲がるところは横線が左に突きでないように注意して書いてました。
私:「青」の下は「月」じゃなくて「円」だったんですね。
K:そうそう。
私:「蔵」の左はカギカギに書いた?
K:そうこういう風に曲げて書いた。
私:「遅」は本当にこう書いたんですか?
(明朝体の旧字体を示して)
私:こうじゃなかった?
K:そんな字は書いた覚えがないです。
私:しんにょうの点は2つじゃなかったんですか?
K:しんにょうの点は1つですよ。他の字もみんな。
私:秘密の「秘」はのぎへんだったんですか?
(明朝体の旧字体を示して)
私:しめすへんじゃなかった?
K:え〜! おかしいなあ、のぎへんだったと思うんだけど。
私:「北」の左の縦線は下に突き出ないんですか?
K:下に突き出ないように注意して書いてたから、そんなことはないです。
私:「来」はこう書いてたんですね。
K:そうです。
私:どうも、ご協力ありがとうございました。
K:久しぶりに頭を使いました。
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唐楷書字典

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楷書の完成期である唐代の石碑、肉筆から楷書だけを集めた字典。

唐代の正字は、説文解字に例示された小篆の字体を楷書に当てはめて新しく作った字体を含む。
多くの書道字典はそのような「正字特有の字体」を掲載していない。そのような字体に影響された「竹山聯句」など晩年の顔真卿の字も載せていない。

この「唐楷書字典」はすべてではないが「正字特有の字体」も載せている。ときには「五體字類」から漏れている例も掲載されていることもある。

書道教室で「正字特有の字体」を書いていくと、師匠に「おいおい、活字のまま書いてくるなよ。字書を調べて書いてこいよ」といわれることもあるのでご用心。

なお、この字典は版元で在庫切れ。もし定価で売っているものをみつけたら購入しておくことをおすすめする。

posted by トナン at 15:34| おすすめの書体字典 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする