樋口一葉の『たけくらべ』の直筆原稿も有名ですけど、あれは印刷所に入稿するための原稿ではなくて、雑誌に直筆を載せるために清書したものなんです。人に見せるために書いたものです。すばらしい書ではあると思いますけど、実際に印刷所に入稿した原稿があのような字体で書かれていたかどうかはわかりません。漱石の「坊ちゃん」の直筆原稿のようなものを「卒意の書」といいますが一葉のは違う。無理に名前をつければ「作為の書」です。こういうものには普段と違う字体を使う可能性があります。
江戸時代までは、手書きには伝統的な字体を使っていました。一方、漢文の本などには正字が相当数使われていました。当時の人はそれを使い分けていたのです。ところが明治になって、学校ができて字を教えようということになると、本にはこの字体で印刷してあるけど、手で書くときはこう書きましょう。という風に教えるのは効率が悪い。で、印刷の字体(正字=明朝体の字体)を手書きするか、手書きの字体(伝統的字体=楷書の字体)を印刷するか、どちらかを選ぶことになります。
明治以降、学校教育では基本的に、印刷も手書きも印刷の字体(正字=明朝体の字体)を選んだのだと思います。昭和の戦後にできた「当用漢字字体表」以降の現在は、逆に印刷も手書きも手書きの字体(伝統的字体=楷書の字体)を使っています。
そのような時代背景を考えると、伝統的字体も、学校教育で使われた正字体も知っていたと思われる夏目漱石が、普段、日常的にどんな字体を書いていたのか、たいへん興味深い資料だと思います。




すみません、この段落は、第一文か第二文、どちらかが何かを言い間違えておいでなのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
私の読み違えでしたらご容赦ください。
ご指摘ありがとうございます。
間違えました。
修正します。