2009年04月05日

『文字の骨組み―字体/甲骨文から常用漢字まで』大熊肇著

090505mojinohonegumi.jpg

240.jpg

241.jpg

本を上梓しました。
序文は府川充男さんに書いていただきました。
本の内容は、このブログに書いてきたようなことをまとめたものですが、ブログに書かなかった新しいネタも収録しています。

大熊肇[著] 府川充男[序] 彩雲出版発行
本体2000円+税 四六版 462頁 2色刷(資料編を除く)

日本図書館協会選定図書になりました。
『図書新聞』(第2924号 2009年07月04日号)に拙著『文字の骨組み』の書評が載りました。評者は小池和夫さんです。

0907004toshoshimbun.jpg
▲クリックすると拡大

正誤表

〈目次〉
序―府川充男 5
はしがき 13

第一章 骨組みの土台
字体って何? 24
正字体って何? 40
字体の三つのベクトル 54
仮名とは用法のことである 61
夏目漱石の字体 67
昔の日本人はどんな字体を書いていたか 75
文部省活字 90
当用漢字表 97
当用漢字字体表 112
旧字体って何? 114
当用漢字で書けない熟語 118
常用漢字表 124
人名用漢字 128
JIS漢字 164
「木」の縦線をハネたらバツなのか 179
部品の位置がかわる字 194

第二章 文字いぢり
さいたま市の「さ」 198
「葛飾区」と「葛城市」と「葛城ミサト」 200
左右に伸ばすのは一字に一カ所 204
吉田さんと𠮷田さん 206
斉藤さんと斎藤さん 212
高田さんと田さん 214
「著」と「着」はもともと同じ字 216
「にく」は音読み、では訓読みは? 218
右と左はなぜ書き順が違うのか 220
「尉」の「寸」は幅を示さない 226
朝日新聞の「新」はなぜ一画多い? 228
「言」は辛一族のみそっかす 232
「県、直、真」の曲げる、曲げない 234
『顔氏家訓』の著者に非難された字体 236
「宮」の口と口はつながる? 238
「保」の旁は「口+木」ではない 240
明朝体の起筆、収筆の角度 242
「隠」の字に隠された呪具 245
しんにょうの点はいくつか 247
しんにょうになり損ねた字 250
己・巳・已と已・以・㠯 253
「と」の書き順と筆脈について 257
歩兵の裏はなぜ「と」なのか 261
辰吉𠀋一郎の「𠀋」 267
ヒゲが生えた明朝体が好き 270
気の毒な当用漢字字体表 287
「わ」と「れ」の左側は同じじゃない 301
「秘」は由緒正しい誤字 306
略字ってどのようにできたの? 311
「会」は草書の字体 322
千年以上、略字が書かれてきた「塩」 324
「圓」はいかにして「円」になったのか 326
枦山南美ってなんて読むの? 328
渡邊の「邊」はいくつある? 330

第三章 資料編
『漢字要覧』の別体 339
『漢字整理案』の「許容体案」「漢字整理案の説明」 345
当用漢字表 357
当用漢字字体表 365
常用漢字表の字種の字体一覧 387
平仮名一覧表 409
片仮名一覧表 441
常用漢字表(本表の前の説明) 454

あとがき・謝辞 455
参考資料 460

posted by トナン at 13:34| Comment(9) | TrackBack(0) | おすすめの本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
それではこちらに書きます(私は漢字の専門家ではなく、たんなる漢字好きなので、あるいは的外れな事かもしれません)。

1.漢音は漢江流域一帯の発音(p.218)

これは何に拠ったものなのでしょうか。
長安付近の発音という説明をよく見るのですが。

2.栃は櫔の萬を万に換えた字

誤りではないのでしょうが、成り立ち的にあまり適切な例では無いと思います(これは質問というより指摘になりますが)。

以上二点です。よろしくお願いします。
Posted by ykhn at 2010年10月16日 21:41
ykhnさま。コメントありがとうございます。

ボクも漢字の研究者ではありません。
好きが高じて調べただけです。

長安は漢江流域一帯に含まれると思います。
漢というのは川の名前であると同時に地名でもあります。
秦は漢江の上流域に漢中郡を置き、劉邦は漢中・巴・蜀の地に王として封ぜられ、漢王(「漢中王」の意)を名乗りました。「〜中」は河川流域の盆地をいう命名法です。
劉邦が即位するとき、漢をそのまま国の名前にしました。その首都が長安です。
と思っていたのですが違いますか?

「櫔―栃」の他に「蠣―蛎、勵―励、礪―砺、氏\厉、邁―迈」なども同様だと思います。

文字化けしている字もあるかと思いますが、察してください。
Posted by 図南 at 2010年10月16日 23:29
回答ありがとうございます。Unicodeが通ると思って書き込んでしまいました。

1.漢音について

長安を漢水(漢江)流域とするのはどうかなあと(あえて言えば渭水流域)。長安は関中ではありますが、漢中盆地には含まれませんし。
歴史的経緯はその通りだと思いますが、最初に封土を得た地名を王朝名としたのであって、漢中=長安という訳では無いと思います。
ではなぜ「漢」音かというと、日本から見た「中国」の当時の呼称だったからだというのが、一般的な説明だと思います。

2.栃

いえ、栃という字自体がちょっと面倒な字らしいのです。以下、中田祝夫・林史典『日本の漢字』第二章(中田氏執筆分)からの要約です。手元にあるのは中公文庫版です。

・トチは国字でもともとは{木万}
・トチ(十×千)=万
・{木万}と中国の字書にある櫔を同一視か
・明治維新後、役所で栃に統一して現在に至る

ということで、挙げられた他の字であればどれでも問題ないはずですが、栃はちょっと、と思うのです。


Posted by ykhn at 2010年10月17日 21:20
ykhnさま。

情報感謝いたします。

漢江流域の発音と長安付近の発音が同じかどうかですね。

「栃」には異説があるということですね。

増刷の際に訂正した方が良いのかどうかも含めてもうちょっと調べてみます。
Posted by 図南 at 2010年10月18日 00:49
すみません。漢音について「一般的な説明」などと決めつけてしまいましたが、「日本から見た」というのが怪しい気がしてきました。なにか探してみますので、前回の書き込みについては保留ということにしておいてください。
Posted by ykhn at 2010年10月19日 00:17
こんばんは。ykhnです。遅くなりましたが、調べた範囲では以下の通りです。

藤堂明保編『学研漢和大字典』,p.1583〜 によれば、
 平安・安然『悉曇蔵』(880)、呉音・漢音
 唐・李涪『刊誤』、呉音
 漢とは、中国を代表する呼び名であるから、長安人は中国の標準語を「漢音」と称したのである。
とあり、原文では「漢音」という語が『刊誤』で使用されているとも読めるが、
http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/ingaku/jion.htm
ここにある"李ふ「刊誤」切韻"と同じものだとすると、「中華の音」は「東都」(洛陽)の音が良いとはあるが、「漢音」という語は使用されていない。李は唐末の人(安然と近い)。

沼本克明『日本漢字音の歴史』東京堂出版,1986,p.104〜 によれば
 唐・慧琳『一切経音義』(788-810)、呉音(呉楚音)・秦音
 平安・安然『悉曇蔵』(880)、呉音・漢音
 「漢」は当時の中国を日本側から把える最も適切な術語であったろう。

とあり、以前の書き込みで良かったということになりました。
Posted by ykhn at 2010年11月24日 01:14
ykhnさん、色々と調べてくださり感謝します。

何かで漢音の漢は地域名だとする記述を読んだ記憶があるのですが、何に書いてあったか失念してしまいました。本棚の本を探したのですがみつかりません。もしかしたらボクの勘違いかもしれません。
ググってみたら岡本英夫さんという方の文章をみつけました。

《 日本に漢字が本格的に伝わってきたのは四世紀から五世紀の頃のようですが、中国の呉(ご)の国で使われていた漢字の発音 (呉昔)が日本に入ってきたのです。ところが、しばらくして、漢の地域、洛陽などがあった中原の地域ですが、そこで使われていた発音(漢音)が日本に入っ てきます。
 その中国では呉よりも洛陽を擁する漢の地域が都会なのです。時代も新しい。それで漢の発音をする人たちからすれば、呉の発音をする人は田舎者のように古臭く思える。それで、日本では、はじめ漢字を呉の発音で使っていましたが、後に漢の発音に大部分変えてしまうのです。ところが仏教の経典は、ずっと呉の発音でやってきたのです。それで今日も経典を読むときは呉の発音なのです。漢字の辞書を引きますと、どちらの発音も表記されています。》
http://homepage3.nifty.com/Tannisho/SyosinsyaKangyo/Honbun%284%29.html

大島正二『漢字伝来』岩波文庫には、

《漢音という呼称は中国の文献には見あたらず、中国人の命名ではない。》
(大島正二『漢字伝来』岩波文庫 71ページ)

とあります。「漢」は当時の中国を日本側から把える最も適切な術語だったとしても、「中国の言葉」という意味で「漢音」と言ったと断定してしまって良いものかどうか迷います。

同書では呉音については次のようにあります

《呉音の「呉」とは中国の江南地方をさす地域名である。(中略)中国の人々がこの地方の方言を「呉音」「呉語」と呼んでいたことは、歴史書の『宋書』や『南斉書』にみえる記事からも明らかである。この点は、呉音とならべて呼ばれる漢音の命名の由来(71ページ参照)とはちがう。》
(大島正二『漢字伝来』岩波文庫 102ページ)

呉音が地域名であることは、加藤徹『漢文の素養 誰が日本文化をつくったのか』光文社新書136ページや山口謡司『日本語の奇跡 〈アイウエオ〉と〈いろは〉の発明』新潮新書26ページなどにもあります。

漢音の「漢」が何を意味するのか、もうちょっと調べてみます。
Posted by 図南 at 2010年11月24日 22:02
いや、手元(足下)の本を引っ繰り返しただけです。

「漢中」というソースがあるのかどうかが気にかかっていたので、無さそうということで、すっきりしました。『漢字伝来』(新書ですね)は最近の本ですから、「漢音」は、やはり日本発の語で由来はあまり明確では無いということなのでしょう。あらたに何かわかったら、お知らせください。

それとは別に「当時の中国人の自称」が「漢人」だという事が、歴史の本をあたれば見つかるはずです。きちんとしたソースは出せませんが、両唐書を検索するとそれっぽい用例がヒットしますし。

とりあえず気になった2点についてお話を伺え、感謝です。
Posted by ykhn at 2010年11月26日 23:18
隋・唐は漢民族じゃないのに「漢人」かあ。

「当時の中国人の自称が漢人」の「当時」はいつごろからのことなのでしょう。

隋・唐よりも前のたとえば南北朝の頃は、「漢人」とは言っていなかったのでしょうかねえ。
Posted by 図南 at 2010年11月26日 23:34
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック