これまで国立国会図書館所蔵の「当用漢字表」の画像を使っていましたが、不鮮明で困っていました。
国立公文書館では原本を直接さわることができ、しかもデジタルカメラでの撮影可なのです(三脚使用は不可)。
「当用漢字表」は昭和21年(1946年)11月16日の『官報』号外に掲載されました。
「当用漢字表」には131字の新字体が示され、旧字体がカッコで囲まれた形で掲載されました。
戦争直後の物資が少ないせいか、粗悪な紙に小さな活字で印刷されたため、細部がよくわからない字が散見されます。
「当用漢字表」が発表された翌年の昭和22年(1947年)6月9日の『官報』に「正誤」が掲載されました。
「正誤」には「当用漢字表」の「正誤」11字種が載っていました。

昭和22年(1947年)6月9日の『官報』に掲載された「正誤」(国立公文書館所蔵)
これもまた粗悪な紙に小さな活字で印刷されたため、細部がよくわからない字が3字種ありました。
そのうちの1つが「隠」の旧字体「(隱)」なのですが、国立国会図書館の『官報』では〈誤〉がどう誤っているのかがはっきりしませんでした。
ある本では「隱」の旁の上部の「爪」が「ノ+ツ」になっている字体が〈誤〉として載っています。
それで拙著『文字の骨組み』357頁にも「隱」の旁の上部の「爪」が「ノ+ツ」になっている字体を掲載しました。
次の写真が国立公文書館にある「当用漢字表」の原本の「(隱)」部分を接写したものです。
小駒さんのおっしゃるとおり、鉛筆で「ゴシクスに非ず」という書き込みがあります。

鉛筆で「ゴシクスに非ず」という書き込みがある(国立公文書館所蔵)
次の写真は左から「当用漢字表」の「(隱)」、「正誤」の〈誤〉の「(隱)」、「正誤」の〈正〉の「(隱)」です。

左から「当用漢字表」の「(隱)」、「正誤」の〈誤〉の「(隱)」、「正誤」の〈正〉の「(隱)」(国立公文書館所蔵)
やはり「当用漢字表」の「(隱)」、「正誤」の〈誤〉の「(隱)」はゴシック体のようです。
つまり「当用漢字表」の「(隱)」の誤りは、字体の誤りではなく、書体の誤りだったのです。
小駒勝美さん、ご教示感謝します。