2007年05月14日

字体変遷・亜〜暗

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【亜】隷書には中央に横線がある。篆書にはない。隷書で突然横線が出現するのは不自然だから、始皇帝の文字統一よりも古い字に起源があるのではないか。とおもって探し出したのが金文の字体。文字統一以前には横線のある字体とない字体があったのだ。ところでこの横線はなんなのだろう。白川静によれば、「亞」は地下の墓室の形で、四隅がないのはそこに悪霊が潜むと考えられていたから、だという。とすればこの横線は棺であろう。
現在の日本で書かれている字体は、行書で書かれてきた字体で、遅くとも宋時代から使われている。
【哀】北朝碑と楷書では「口」の最終画が左に突き出ている。正字の例は見あたらない。最終画は払っても止めてもどちらでも良い。日本上代は一画多いめずらしい字体。
【愛】楷書では「心」の最終画と「夂」を繋げて書く。日本上代の字体を見ると、日本には正字が伝わったようだ。草書はなぜこのような字体になるのだろうか。江戸の崩し方を見るとわかったような気がする。
白川静によれば、「愛」は振り向く人の形に「心」を加えた会意字、だという。「後ろ髪引かれるような」というが、そのような心情を字にしたものだろうか。ロマンを感じる字である。
【悪】隷書では「亜」と同様に横線がある。睡虎地秦簡に横線のある字体を発見。居延漢簡にはくさかんむりがついたようなめずらしい字体がある。「悪」は正字と「西+心」の字体が両方書かれてきた。戦前の陸軍幼年学校の用事便覧には「西+心」の字体が明朝体で印刷されている。現在の字体はもともと行書で書かれてきた字体。
【握】 草書や行書ではほとんどの字に点が付く。この点は捨て筆、咎なし点、補空などと呼ばれる。正字がみあたらない。平安和様は手偏にも木偏にも見える。手偏と「木偏は異体字として通用する。
【圧】 「圧」は「壓」の略字。楷書と正字に使用例が見つからない。しばしば「厂」の上に点がつくことがある。また「土」に点がつくことがある。中国の簡体字は「圧」に点がついた字体。「土」に点がつくのは「士」と間違えないための記号であろう。
【扱】 中国での使用例が少ない。「及」は手書きすると三画なのに、康煕字典も漢和辞典でも四画。
手書きの字体を示しているはずの文部省活字だけ旁が四画になっている。 手書きでは書きにくいとおもうのだがどうだろう。
【安】「宀」の「点」と女は繋げて書くのが伝統的な書き方。
【暗】もとの字は闇。説文と康煕字典だけが「音」の一画目を横線にし、他はすべて(正字でさえも)点にしている。
posted by トナン at 17:20| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 字体変遷字典(大熊肇試作) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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