2008年02月02日

Futura(フーツラ)はユダヤ企業に嫌われている?―その後

以前、「Futura(フーツラ)はユダヤ企業に嫌われている?」http://tonan.seesaa.net/article/47184424.html
を書きましたが、その後にもうひとつ文献をみつけました。

「書体活字のナショナリティ」
渡辺慎太郎∗
2000 年2 月20 日
1 日本の書体は報われない
1.1 イスラエルからの大量返品

以下は
http://www.10days.org/syotaination.pdf
からの引用

「担当者は慌てていた。大阪に本社を置く大手家電メーカーがイスラエルに出荷したビデオデッキ3万台が、すべて返品されてきたからだ。製品は仕様をたしかに満たしている。
しかしイスラエル側は憤慨しており、違約金を払ってでもビデオデッキは受けとれないという。担当者には、何がなんだか理解できない。
大手広告代理店を通じて調査した結果、製品ではなくマニュアルに不備があるらしいことがわかってきた。だが、べつに誤植があるわけではない。結局わからずじまいのまま、ある書体専門家に調査がゆだねられることになる。
FAXで送信されてきたマニュアルを見た専門家は、その不備を瞬時に悟った――フツーラのせいだ。
フツーラは、幾何学的でスマートなサンセリフ書体である。デザイナーが「かっこいい」と感じて選んだこの書体はしかし、ナチスと強く結びついているのだ。ヒトラーが愛用した書体、アウシュビッツ駅の文字に使われた書体、それがフツーラに着せられたイメージだった。フツーラの使用はドイツではタブー視されており、隣国オランダでもそれに近い。
その書体がイスラエルでどのように受け止められるかは、もはや書くまでもないだろう。」


この話は本当なんでしょうか?
posted by トナン at 00:45| 埼玉 ☀| Comment(18) | TrackBack(0) | 文字あれこれ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ここに書かれている内容は他に、雑誌「季刊d/SIGN」誌の2001年創刊号に「活字書体のナショナリティ」というタイトルで、この著者がほぼ同じ内容を書いています。
この件、私の方で少し調べていますので、その途中経過を書いておきます。
関西の大手家電メーカー3社の広報に聞いたところ、2社からは、「うちではそういう話はありません。そういう話も聞いたことがありません。」とのこと。1社は「組織が大きいため全社的にそういう話があったかどうかを検証するのは難しく、また、昔の話でもありなんともいえない。私自身はそういう話は聞いたことがない。」とのことでした。
広告代理店3社からは、2社が「そういう話は聞いたことがない」とのこと。1社はこの話を伝える前の段階で、「クライアントに関することは一切お話しできません」という返答でした。
その他、経済産業省や大使館などの外部団体にこういう話が報告されてないかも調べましたが、今のところこのような話は出てきていません。ただ、だからといってこの件がまったくなかったことと証明できるものでもありません。継続して調査します。
ついでに書いておくと、“アウシュビッツ駅の文字に使われていた“と書かれていますが、これも検証できていません。そもそもアウシュビッツ駅の写真自体がほとんど残っていない。ポーランドのアウシュビッツ収容所博物館に勤めている方に聞いてみましたが「見たことがない」とのことでした。アウシュビッツの収容所の入り口にスローガンが門の上に取り付けられていますがそれもFuturaではありません。
たぶんこの著者は、人から聞いた話を検証・確認しないまま鵜呑みにして書いてしまったものだと思います。
Posted by fukamidori at 2008年02月04日 22:55
fukamidoriさま
貴重な情報をありがとうございました。

人から聞いた話だとして、誰から聞いたのか知りたいですね。

少しナチスの資料も調べたのですが、フーツラを使った例をみつけることができません。
Posted by トナン at 2008年02月04日 23:33
ナチスが台頭する以前から世界中で Futura は大流行していたわけですし、ドイツの印刷屋にもFutura は残ってたはずです。ブラックレター以外の書体を全部回収し廃棄したわけではないでしょうから、探せばナチスの Futura 使用例も見つかるはずです。ただ、そういうものがあったからと言ってて、Futura=ナチスではない。
先入観を持ってそういう事例を数例でも見てしまうと、単純に、ああやっぱり Futura はナチスイメージなんだって思ってしまう。
映画の「父親たちの星条旗」でアメリカが硫黄島を攻略したことを知らせる新聞(サンフランシスコタイムズだったかな)が冒頭で大写しになりますが、そこに使われてた見出し書体が Futura です。Futura にナチスイメージがあればそんなところに使わないでしょう。
当時から世界中で使われてたわけです。


Posted by fukamidori at 2008年02月05日 00:10
ブログ「ここにも Futura」を書いている小林です。コメント有り難うございます。
私が雑誌『デザインの現場』2004年10月号にこの噂を否定する文章を書いたわけですが、そのきっかけとなったのは、デザイナー宮里氏のこの話についての質問でした。
宮里氏も、同じ渡辺氏の文章を読んでいて疑問に思い、私への質問のすぐ後でそれをファクスしてくれました。私と知り合いとで調べた結果は彼のブログの June 2005 のエントリー、「Futura(フーツラ)とナチス」
http://fmstudio.jpn.org/blog/050601.html
のなかに書いてあります。真ん中あたり、パッケージのラベルの使用例のすぐ下です。
Posted by 小林 章 at 2008年02月05日 01:59
fukamidoriさん、小林さんコメントありがとうございます。

ははあ、これが発端なんですか。渡辺氏の文章の出所はどこなのでしょう。

ぼくもその頃、同じ疑問をもっていまして、岡澤研(幹事:岡澤慶秀さん、席亭:府川充男さん)の飲み会でこの話をしたところ、小澤裕さんが「今度、小林章さんに聞いてみる」とおっしゃっていたのですが、そうこうしているうちに『デザインの現場』2004年10月号が出たわけです。
Posted by トナン at 2008年02月05日 04:36
片塩二朗. 活字に憑かれた男たち. 朗文堂, 1999. p. 257にはなにが書いてあるんでせうか?
Posted by kzhr at 2008年02月06日 14:26
kzhrさま。

――「ドイツ民族のことば、ドイツ民族の書体」が宣伝相・ゲッペルスから提唱されて、徐々にドイツの印刷物は、ロドルフ・コッホ(一八七六―一九三四)とその追随者たちによる、いわゆる亀の甲文字「ドイツ印刷書体・疑似ゴシック体」と、ドイツ人パウル・レンナー作の、フーツラ一辺倒になっていったのです。――

とはありますが、「ユダヤ人に嫌われている」とは書いてないのでスルーしてました。
Posted by トナン at 2008年02月06日 18:42
ご教示ありがたうございます。別件ですが、問題の文献ではフツーラと表記されてゐますね。なんでだらう。
Posted by kzhr at 2008年02月07日 01:08
上の文章について、フーツラの記述は間違ってると思いますが、Rudolf Koch に関しても誤解を生みそうなので少し書きます。Rudolf Koch はカリグラファー、書体デザイナーとして多くの仕事をした人でたしかにゴシック体も多く作っていますが、ドイツでは古くからゴシック体を使用してきた歴史があり、Koch がゴシック体を作ったのは自然な流れです。1934年に亡くなっているわけですし、ナチスとは何の関係もないはずです。
Posted by fukamidori at 2008年02月07日 01:12
フツーラの方がドイツ語読みに近い、とどこかに書いてあったと記憶してます。

ナチは宣伝に当初ドイツ文字を使ったが、読みにくいのでフーツラを多用するようになった、というようなものを何かで読んだような気がします。
Posted by トナン at 2008年02月07日 02:21
『デザインの現場』2004年10月号でも書いたとおり、ドイツ文字はナチス政権によって1941年に使用を禁止されることになります。表向きの理由は「ドイツ文字のなかにユダヤ人がつくった書体があるため」でしたが、それは事実ではありませんでした。本当の理由は、占領した国々の人たちがドイツ文字独特の字体を読めなかったため、通達などに使用する書体を変える必要が生じたということのようです。
上記の文章、「徐々に(中略)一辺倒になっていった」という書き方は誤解を招くと思います。それだと、当時使われなていかったドイツ文字をナチスが一般化させたみたいに聞こえますが、当時のドイツの普通の印刷物はドイツ文字で組むのが当たり前でした。新聞でも詩集でも。そういう例がごろごろしているドイツにいるとわかります。
これについては私も調べていて、コメント欄に収まるように短くまとめることが難しいので、私のブログ「ここにも Futura」にそのうち載せたいと思います。
Posted by 小林 章 at 2008年02月12日 21:08
小林さん、コメントありがとうございます。
お願いします。すっきりさせてください。
カソリックはオールドローマン、プロテスタントはモダンローマンを好む、というのも何かで読んだ気がしますが、本当なんでしょうか。
Posted by トナン at 2008年02月13日 03:16
「カソリックはオールドローマン、プロテスタントはモダンローマン」って、それスゴイなー、そこまできてますかー、って笑っちゃいました。その国はきっと人口の95%くらいが書体デザイナーで、みんなが神経質に書体を判別するんですね ;-)。トランジショナル体(オールドローマンとモダンローマンとの中間の Baskerville などの書体)は変なことになっちゃいますね。
Posted by 小林 章 at 2008年02月16日 01:27
小林さん、コメントありがとうございます。
数年前(資料を見たところ2000年)、スウェーデン大使館のギャラリーで知人が展覧会をすることになり、展覧会のお知らせ(葉書)のデザインを頼まれました。
何かの雑誌だったか書籍だったかで「フォントにはお国柄がある」というのを読んでいたので、その著者が経営する出版社に電話をしてみたんです。上記の内容を伝えた上で「スウェーデンではどんなフォントを使っていますか?」って。そうしたらその著者本人が電話に出て、「スウェーデンですか。悩ましいなあ。オールドローマンを使った方が無難でしょうね。ギャラモンとかサボンとか」とおっしゃるので、ギャラモンを主に使って葉書をデザインしました。
その縁で、スウェーデン大使館からイベントのお知らせが届くようになったのですが、そのお知らせはタイムズで印字してあります(^^;)
来日したスウェーデンの作家が自分の作品のパンフレットを持ってきたんですが、それもタイムズで印刷してある。その作家はスウェーデンではグラフィックデザイナーでもあるんです。で、その方に(通訳を通して)「スウェーデンではタイムズも使うんですか? フォントにはお国柄があると聞いたことがあるんですが」と聞いたところ、「昔はともかく、インターネットの世の中にどの国がどのフォントということはないですよ」とのお答えでした。
Posted by トナン at 2008年02月16日 14:06
何かで読んだ、誰かが言っていた、
という不明確な書き方、もうやめません?
うろ覚えは、あくまでも個人の推測や誤認の域を出ません。
たとえコメント欄であろうと、できるかぎり
ソースをしっかり再確認した上で転載しするべきだと思います。

特に欧文書体の誕生には思想や歴史や宗教と
深く関係してきたりするわけですから。
その分、文献も沢山あるわけですし。
出所が明確ならば、良し悪しは別にしても正誤ははっきりすると思います。
Posted by オクダ at 2008年02月18日 14:19
そのスウェーデンの人の言ってることは当然だと思います。私も雑誌『デザインの現場』で、お国柄について2007年の6月号から10月号まで書きました。

フォントは、特定の国や文化圏の雰囲気を持たせたものと、ユニバーサルに使えるデザインを目指したものと(とても大ざっぱですが)2つに分けることができます。前者には金属活字時代にドイツでつくられたブラックレター書体や、フランスの筆法をとり入れたスクリプト体などがあって、たいていはその国独特の字形が含まれているので慣れていないと読みにくかったりします。私の連載ではそういう書体を取り上げています。後者は Times Roman, Palatino, Garamond, Bodoni, Helvetica, Univers, Frutiger などたいていの有名な書体で、慣れていないと読めない字、みたいなのはありません。
だから「Times はイギリスで生まれたからイギリスでのみ使える」というような考えは間違いです。

ドイツの代表的な新聞『Frankfurter Allgemeine』が Times で組まれている、ファッション誌『Vogue』フランス版の見出しが Caslon を使って組んである、というのを考えても分かると思います。

「この料理はフランス料理だからフランス産のワインが合うよ」なんて言うだけで西洋料理のツウ人に聞こえた時代があったのかもしれませんが...。
Posted by 小林 章 at 2008年02月18日 14:45
オクダさまのおっしゃることはごもっともです。
私もこの件の書き始めは書名、著者を書いていましたが、本名でコメントをくださった小林章さんに万一ご迷惑がかかるといけないとおもい、あやふやに書いております。
Posted by トナン at 2008年02月19日 02:45
なるほど、こういうのって本名じゃ書かないんですか! トナンさんのお気遣い有り難く思います。でも、とりあえず本件が一件落着するまでは本名で書き続けるつもりです。
Posted by 小林 章 at 2008年02月19日 05:48
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