を書きましたが、その後にもうひとつ文献をみつけました。
「書体活字のナショナリティ」
渡辺慎太郎∗
2000 年2 月20 日
1 日本の書体は報われない
1.1 イスラエルからの大量返品
以下は
http://www.10days.org/syotaination.pdf
からの引用
「担当者は慌てていた。大阪に本社を置く大手家電メーカーがイスラエルに出荷したビデオデッキ3万台が、すべて返品されてきたからだ。製品は仕様をたしかに満たしている。
しかしイスラエル側は憤慨しており、違約金を払ってでもビデオデッキは受けとれないという。担当者には、何がなんだか理解できない。
大手広告代理店を通じて調査した結果、製品ではなくマニュアルに不備があるらしいことがわかってきた。だが、べつに誤植があるわけではない。結局わからずじまいのまま、ある書体専門家に調査がゆだねられることになる。
FAXで送信されてきたマニュアルを見た専門家は、その不備を瞬時に悟った――フツーラのせいだ。
フツーラは、幾何学的でスマートなサンセリフ書体である。デザイナーが「かっこいい」と感じて選んだこの書体はしかし、ナチスと強く結びついているのだ。ヒトラーが愛用した書体、アウシュビッツ駅の文字に使われた書体、それがフツーラに着せられたイメージだった。フツーラの使用はドイツではタブー視されており、隣国オランダでもそれに近い。
その書体がイスラエルでどのように受け止められるかは、もはや書くまでもないだろう。」
この話は本当なんでしょうか?
この件、私の方で少し調べていますので、その途中経過を書いておきます。
関西の大手家電メーカー3社の広報に聞いたところ、2社からは、「うちではそういう話はありません。そういう話も聞いたことがありません。」とのこと。1社は「組織が大きいため全社的にそういう話があったかどうかを検証するのは難しく、また、昔の話でもありなんともいえない。私自身はそういう話は聞いたことがない。」とのことでした。
広告代理店3社からは、2社が「そういう話は聞いたことがない」とのこと。1社はこの話を伝える前の段階で、「クライアントに関することは一切お話しできません」という返答でした。
その他、経済産業省や大使館などの外部団体にこういう話が報告されてないかも調べましたが、今のところこのような話は出てきていません。ただ、だからといってこの件がまったくなかったことと証明できるものでもありません。継続して調査します。
ついでに書いておくと、“アウシュビッツ駅の文字に使われていた“と書かれていますが、これも検証できていません。そもそもアウシュビッツ駅の写真自体がほとんど残っていない。ポーランドのアウシュビッツ収容所博物館に勤めている方に聞いてみましたが「見たことがない」とのことでした。アウシュビッツの収容所の入り口にスローガンが門の上に取り付けられていますがそれもFuturaではありません。
たぶんこの著者は、人から聞いた話を検証・確認しないまま鵜呑みにして書いてしまったものだと思います。
貴重な情報をありがとうございました。
人から聞いた話だとして、誰から聞いたのか知りたいですね。
少しナチスの資料も調べたのですが、フーツラを使った例をみつけることができません。
先入観を持ってそういう事例を数例でも見てしまうと、単純に、ああやっぱり Futura はナチスイメージなんだって思ってしまう。
映画の「父親たちの星条旗」でアメリカが硫黄島を攻略したことを知らせる新聞(サンフランシスコタイムズだったかな)が冒頭で大写しになりますが、そこに使われてた見出し書体が Futura です。Futura にナチスイメージがあればそんなところに使わないでしょう。
当時から世界中で使われてたわけです。
私が雑誌『デザインの現場』2004年10月号にこの噂を否定する文章を書いたわけですが、そのきっかけとなったのは、デザイナー宮里氏のこの話についての質問でした。
宮里氏も、同じ渡辺氏の文章を読んでいて疑問に思い、私への質問のすぐ後でそれをファクスしてくれました。私と知り合いとで調べた結果は彼のブログの June 2005 のエントリー、「Futura(フーツラ)とナチス」
http://fmstudio.jpn.org/blog/050601.html
のなかに書いてあります。真ん中あたり、パッケージのラベルの使用例のすぐ下です。
ははあ、これが発端なんですか。渡辺氏の文章の出所はどこなのでしょう。
ぼくもその頃、同じ疑問をもっていまして、岡澤研(幹事:岡澤慶秀さん、席亭:府川充男さん)の飲み会でこの話をしたところ、小澤裕さんが「今度、小林章さんに聞いてみる」とおっしゃっていたのですが、そうこうしているうちに『デザインの現場』2004年10月号が出たわけです。
――「ドイツ民族のことば、ドイツ民族の書体」が宣伝相・ゲッペルスから提唱されて、徐々にドイツの印刷物は、ロドルフ・コッホ(一八七六―一九三四)とその追随者たちによる、いわゆる亀の甲文字「ドイツ印刷書体・疑似ゴシック体」と、ドイツ人パウル・レンナー作の、フーツラ一辺倒になっていったのです。――
とはありますが、「ユダヤ人に嫌われている」とは書いてないのでスルーしてました。
ナチは宣伝に当初ドイツ文字を使ったが、読みにくいのでフーツラを多用するようになった、というようなものを何かで読んだような気がします。
上記の文章、「徐々に(中略)一辺倒になっていった」という書き方は誤解を招くと思います。それだと、当時使われなていかったドイツ文字をナチスが一般化させたみたいに聞こえますが、当時のドイツの普通の印刷物はドイツ文字で組むのが当たり前でした。新聞でも詩集でも。そういう例がごろごろしているドイツにいるとわかります。
これについては私も調べていて、コメント欄に収まるように短くまとめることが難しいので、私のブログ「ここにも Futura」にそのうち載せたいと思います。
お願いします。すっきりさせてください。
カソリックはオールドローマン、プロテスタントはモダンローマンを好む、というのも何かで読んだ気がしますが、本当なんでしょうか。
数年前(資料を見たところ2000年)、スウェーデン大使館のギャラリーで知人が展覧会をすることになり、展覧会のお知らせ(葉書)のデザインを頼まれました。
何かの雑誌だったか書籍だったかで「フォントにはお国柄がある」というのを読んでいたので、その著者が経営する出版社に電話をしてみたんです。上記の内容を伝えた上で「スウェーデンではどんなフォントを使っていますか?」って。そうしたらその著者本人が電話に出て、「スウェーデンですか。悩ましいなあ。オールドローマンを使った方が無難でしょうね。ギャラモンとかサボンとか」とおっしゃるので、ギャラモンを主に使って葉書をデザインしました。
その縁で、スウェーデン大使館からイベントのお知らせが届くようになったのですが、そのお知らせはタイムズで印字してあります(^^;)
来日したスウェーデンの作家が自分の作品のパンフレットを持ってきたんですが、それもタイムズで印刷してある。その作家はスウェーデンではグラフィックデザイナーでもあるんです。で、その方に(通訳を通して)「スウェーデンではタイムズも使うんですか? フォントにはお国柄があると聞いたことがあるんですが」と聞いたところ、「昔はともかく、インターネットの世の中にどの国がどのフォントということはないですよ」とのお答えでした。
という不明確な書き方、もうやめません?
うろ覚えは、あくまでも個人の推測や誤認の域を出ません。
たとえコメント欄であろうと、できるかぎり
ソースをしっかり再確認した上で転載しするべきだと思います。
特に欧文書体の誕生には思想や歴史や宗教と
深く関係してきたりするわけですから。
その分、文献も沢山あるわけですし。
出所が明確ならば、良し悪しは別にしても正誤ははっきりすると思います。
フォントは、特定の国や文化圏の雰囲気を持たせたものと、ユニバーサルに使えるデザインを目指したものと(とても大ざっぱですが)2つに分けることができます。前者には金属活字時代にドイツでつくられたブラックレター書体や、フランスの筆法をとり入れたスクリプト体などがあって、たいていはその国独特の字形が含まれているので慣れていないと読みにくかったりします。私の連載ではそういう書体を取り上げています。後者は Times Roman, Palatino, Garamond, Bodoni, Helvetica, Univers, Frutiger などたいていの有名な書体で、慣れていないと読めない字、みたいなのはありません。
だから「Times はイギリスで生まれたからイギリスでのみ使える」というような考えは間違いです。
ドイツの代表的な新聞『Frankfurter Allgemeine』が Times で組まれている、ファッション誌『Vogue』フランス版の見出しが Caslon を使って組んである、というのを考えても分かると思います。
「この料理はフランス料理だからフランス産のワインが合うよ」なんて言うだけで西洋料理のツウ人に聞こえた時代があったのかもしれませんが...。
私もこの件の書き始めは書名、著者を書いていましたが、本名でコメントをくださった小林章さんに万一ご迷惑がかかるといけないとおもい、あやふやに書いております。