先日、府川充男さんに「大熊君、本に『しんにょうの点は、くねる1点かくねらない2点』って書いてたけど、弘道軒清朝とか漢籍の版本には2点でくねる字あるよね」とするどいご指摘をいただきました(汗)
「くねる2点しんにょう」については、手書きの字にはほとんど出てこないので、例外ってことで本では割愛したんですが、もうちょっとくわしく書きます。
弘道軒清朝の四号のしんにょうの部首の字種です。
「くねる1点しんにょう」と「くねる2点しんにょう」が混ざっています。
もう一度、古代文字から見てみましょう。
しんにょうは「彳(テキ)」と「止(シ)」を合わせたものです。
「彳(テキ)」は「行」の左半分で「行く」という意味。
「行」は十字路の形です。
「止(シ)」は「止まる」という意味ではなくて、殷代は「進む、歩く」という意味です。
「止(シ)」を2つ合わせた字が「歩」です。
つまり、しんにょうは「行く、進む、歩く」という意味です。
「通」を例にとって見てみましょう。
甲骨文ではまだ「止」がありません。
金文で「止」が加わってやっと「しんにょう」の部品が揃います。
篆書の手書きで「止」の最終画が右に伸び、「にょう」になります。
隷書で「止」が略されてやっと「しんにょう」っぽくなります。
亀の甲羅や骨に彫られたり、金属に鋳込まれたり、石に刻まれていた文字が、筆で手書きされることによって字形が劇的に変化します。これを「隷変(れいへん)」と言います。
隷書のしんにょうを3タイプあげました。
Aがもっとも基本的な隷書のしんにょうです。
「彳」も「止」も右上から左下に向けて書かれています。
これをつなげても楷書のしんにょうのようにはなりません。
「彳」が「さんずい」のように左から右に書かれるようになります。
これは書いてみると見た目以上に大きな変化です。
「止」は右上から左下に向けて書かれています。
これが「2点でくねらない」しんにょうの元祖です。
これの2点目からつづけて書くと「1点でくねる」しんにょうになります。
「彳」を左から右に書き、「止」を左上から右下に向けて書いたしんにょうです。
これが「2点でくねる」しんにょうです。
手書きでは「2点でくねる」しんにょうは希です。
隷書では、2点のしんにょうも希にあります。
なお、行書ではくねりを略して書くこともありますし、草書では点は略されます。
2008年05月13日
この記事へのコメント
この記事へのトラックバック