2010年10月07日

漱石の2種類の「れ」

数年前書いたように「「わ」と「れ」の左側は同じ形ではない」。
漱石は2種類の「れ」を同じ原稿中に書く。

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左が明治期に誤って普及したと思われる字体。右が伝統的な「れ」の字体。
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2010年10月06日

畏るべし漱石! 1字種に複数の字体を書く

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集英社新書ビジュアル版『直筆で読む「坊っちゃん」』から引いてきた「世」。
この字種の楷書・行書には3種類の字体があるが、夏目漱石は、同一の原稿中に2種類の字体を書いている。

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これも同書から引いてきた「亭」。
上部が「口」のものと「やぐら(はしご)」の2種類の字体を書いている。

「世」の2種類の字体も「亭」の2種類の字体も、書き慣れた筆致であり、意識的に書き分けたのではなく、無意識に書き分けたのだろう。
漱石は字を読むだけではなく、手習いもかなりやっていたのだろう。
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2010年09月19日

学参フォントの先祖? 渡部温『標註訂正 康煕字典』講談社

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渡部温『標註訂正 康煕字典』講談社の「口」は、学参フォントのように右下の隅の縦線が下に突き出していない。これにはそうとうこだわっているようだ。
この字書の親字の字体に言及している資料を見たことがないので掲載しておく。

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オリジナルの康煕字典では「口」の右下の隅の縦線が下に突き出している。

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[学参フォント]文字の骨格によって文字の骨組みは変わる

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明朝体の「口」は右下の隅の縦線が横線の下に突き出しているが、学参フォントの「口」は突き出していない。これは教科書体の形に倣っているから。

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上の図は拙著『文字の組み方』の105頁に掲載したもの。
教科書体の「口」の右下の隅の縦線が横線の下に突き出していないのは、@の運筆によるからである。しかしこのような運筆になるのは右上の角が鋭角に折れるから。
楷書には右上の角が鋭角でないものもあり、そのような字はAのような運筆なるから、右下の隅の縦線が横線の下に突き出す。
明朝体が楷書の字体に従う必要はないが、もし明朝体の骨格を手書きすればAの運筆になるはず。
文字の骨格によって文字の運筆が変わり、文字の運筆が変わることによって文字の骨組みは変わる。
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2010年09月11日

「々」のルーツ?

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江戸期の「同」という字。
これが「々」のルーツではないだろうか。
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めずらしい「咎なし点」の使用例

拙著『文字の骨組み』に書いたように、書いても書かなくてもよい点を「咎なし点」とか「捨て筆」という。
その「咎なし点」にめずらしい使用例(ボクが知らなかっただけかもしれないが)を見付けたので、メモ代わりに記録しておく。

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江戸期の文書で「木崎村」と書いてある。
「崎」に「咎なし点」が付くことはよくあるのだが、これは「崎」に点を付けずに書いてつづけて「村」を書き、その後に崎の「咎なし点」を書いている。
点は汚れではないかとも思ったのだが、「村」の最終画の点を上にハネているので、「咎なし点」だろうとおもう。
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2010年08月26日

「萬朝報(万朝報)」の平体活字

書体研究blogさんの「萬朝報 明治44年9月18日」に画像が載っていて、平体活字ですね。
紙面広告に見る萬朝報さんには

* 第0001号 明治25年11月01日(火) 第7、8面の銃器類について明治期の法令沿革
* 第0200号 明治26年07月05日(水) 第4面の「廣告について御注意」
* 第0330号 明治27年01月16日(火) 第4面の川上演劇について
* 第0485号 明治27年07月15日(日) 第4面の「帝国農家一致結合」に関わり当時の農会について

の画像が載っていますが、平体活字ではありません。

いつから平体活字になったのでしょう?
日本図書センター『萬朝報:CD-ROM版』(1997)に収録されているそうですから、それで調べれば良いのですが、今は時間がありません。
いつか調べるということで、メモ代わりにブログに書いておきます。

もしご存じの方がいらしたら教えて下さい。
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2010年04月04日

翔平さんの「字体インタビュー」2

翔平さんが,お友達にお願いして,お友達のおばあちゃんにインタビューした結果を送ってくれました。
インタビューの「手引き」は翔平さんの自作だそうです。

友達のおばあさんにやっていただきました。
私がインタビューしたのではなく、その友達にやってもらいました。
その際、申し訳ないのですが、分かりやすいよう「手引き」なるものを勝手ながら作らせていただきました。
自分の考えで作ったので及ばない点が多々あるかと存じますが、見ていただければ幸いです。

画像を見ていただければ分かると思うのですが、「(手引き)」と付いている画像に色々書いております。
打ちこんであるのは自分が書きました。

尚、一枚目は全て記入が無いとのことでしたので、ありません。
友人に使用の許可は戴いております。

なんだか、あまり何も分からない他人にやってもらうというのは難しいと痛感しました……。


翔平さんが作ったインタビューの「手引き」のPDF
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〈真〉の硬筆と毛筆で習った字体が違う,という証言が貴重です。
それから,しんにょうが「1点でくねるしんにょう」なのと,しょくへんの旧字体を書いた記憶がない,というのも貴重な証言だと思います。
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2010年04月01日

拙著が「JaGraニュース」で紹介される

拙著『文字の組み方―組版/見てわかる新常識』(誠文堂新光社)が「JaGraニュースvol.170」で紹介されました。

☆「JaGraニュースvol.170」直リンク(6分過ぎあたり)
http://www.jagrabb.net/contents_detail.aspx?s=201003-01-jn170

☆「ジャグラBB」トップページ
http://www.jagrabb.net/

☆「ジャグラ書店へようこそ!」22
http://astore.amazon.co.jp/wwwjagraorjp-22

紹介してくださった社団法人日本グラフィックサービス工業会・専務理事の青木俊樹さん(面識はありませんが),ありがとうございます。
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『活字印刷の文化史』が第8回「竹尾賞」を受賞

『活字印刷の文化史』(勉誠出版)が第8回「竹尾賞」デザイン評論部門の優秀賞に決まった,と小宮山博史先生から連絡をいただきました。

本書において印刷文化を切り拓く論攷を集め、その抜きん出た水準でヴィジュアル・コミュニケーションのよりよいあり方に関わる立論を供した事に対して。

このような本の制作のお手伝いができて光栄です。

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アイデア』編集長の室賀清徳さんが,「デザイン書籍部門」で審査員特別賞の受賞が決まりました。

雑誌「アイデア」2002年300号以降の特集形式による1冊で完結する充実した編集内容とその活動に対して。


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2010年03月30日

翔平さんが調べた「字体インタビュー」

2008年の「字体インタビュー」をご覧になって,「字体インタビューのフォーマット」を使ってインタビューを行った翔平さんから結果をいただいたので掲載します。
翔平さんは高校1年生だそうです。高校1年生からこういうことに興味があるなんて,将来有望です。ボクなんか高校1年生のときは何にも考えてなかった。
翔平さん,ありがとうございます。

それにしても翔平さんは字が上手ですね。書道を習っているのかな?

〈翔平さんからのメール〉

コメントさせていただきました、翔平と申すものです。

両面印刷をしたので大変見難くなっておりますが、ご容赦ください。

手が震えてうまく書けていませんし、何度も消して見づらいかと存じますので、
「補足」と名前の付いている画像に祖母の証言を元に再現した文字を書いておきました。
右に○印が付いているものは解答を見たものです。

祖母は大正15年(昭和元年)の6月生まれで、兵庫県三田の出身です。

筆書きと鉛筆書きで習った字は違ったか。と聞いたところ「同じだった」と申しておりました。

一字一字詳しく聞きましたので、うろ覚えながら会話風に内容をかいつまんで書かせて頂きます。


筆書きと鉛筆書きで習った字は同じだったとおっしゃっていますが,無意識に違う字体を書いていたのではないかと思います。

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「衛」(解答見ました)
祖母「どんな字だったかな……思い出せない」
私「こんな字じゃなかった?」
祖母「そうそう、思い出した。五書いてロ(ろ)かいてヰだった」
私「上は五だった?横線あった?」
祖母「ある。なんせ ゴロイ で覚えてるから」

「横」
祖母「横なんて今と一緒」(書きながら)
私「小さく横棒無かった?」
祖母「無かった。」

「穏」(解答見ました)
祖母「穏やかってどんな字?」
私「こんなんじゃなかった?」
祖母「こんなんだった」(書きながら)
私「ノの下にツだった?中にしめた?」
祖母「ノツヨだった。」
私「ヨはちょっと突き出す?」
祖母「突き出す」
私「ツとヨの間に、エは入ってなかった?」(見せながら)
祖母「そんなのは無かったように思う」

「会」
祖母「カイっていったらこの字?」
(「回」と書いたので)
私「違う違う。あのー、屋根書くやつ」
祖母「あー、違う違う」
私「(書き終えて)中は点々だった?」
祖母「一書いて四みたいなの書いて日だった。内側に点々って書いた。」
私「この四みたいなのの真ん中の線は上に突き出した?」
祖母「突き出さない」

「偽」(解答を見ました)
祖母「どんな字だったかな……昔のことだから思い出せない。読むのは読めるけど。」
私「こんな字だった?」
祖母「そうそう、イ偏(ニンベンと言わずイヘンと言っていた)に為。」
私「これもノにツだった?」
祖母「そうそう。その下になんせ、ややこしいやつがあった。」

「塩」
祖母「これは今と一緒」(すらすらと書きました)


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「恵」
祖母「恵みって言ったらこの字」
私「ここのムは離した?」
祖母「離した。ここまで書いて、ム」
(この字に関しては、祖母の名前に含まれるので、間違いないと思います。)

「軽」
祖母「車に、こうこう書いてエ」
私「ここは く を三つ?」
祖母「そう三つ」

「虚」(解答見ました)
祖母「思い出せない」
私「虎の頭かいて・・・」
祖母「虎の頭……?わからない」
(解答を見せて)
祖母「あーこんなんか」
私「この下はチョンチョンだった?カギ見たいなの書かなかった?」
祖母「どうだっただろう……」
(長らく悩んだ末)
祖母「点々やった。点々やったと思う。」

「撃」(解答見ました)
祖母「せめるっていう字……わからない」
私「車見たいなの書いて」
祖母「こうかな」
私「ここの車見たいなところどう書いた?山みたいなのつけた?」
祖母「山じゃなかった。ムみたいなの。」
私「車書いてム見たいなの?」(書いて見せる。補足に書いてある字です。)
祖母「そうそうそんなの。」

「飲」
祖母「これはこう」
私「食偏は点だった?横線みたいなの書いた?」
祖母「こうだった。点。」

「関」(解答見ました)
祖母「今の字とは違うけど、思い出せない」
私「こんなのだった?」
祖母「あぁ、糸書いて……」
(門構えの中を何度も何度も書き直しました)
祖母「あー、糸の頭2つ書いて、こうこんなやつ」
(「卯」の一画目をなくした字を書く)
私「2個目のカギは下向いてた?」
祖母「どっちも上向いてた」
(最終的に言ったのは旧字と同じものでした)

「状」
祖母「ジョウって言ったら……こうカギ書いて」
私「ここはカギだった?点じゃない?」
祖母「そう。カギ」

「真」
祖母「マはこう」
私「上はヒ書いた?ここは曲げた?」
祖母「上はヒでここは曲げた。」

「青」
祖母「アオは……こう」
私「ここは円だった?」
祖母「月って書くやつもあった。」
私「習ったのは円?」
祖母「そう」

「蔵」(解答を見ました)
祖母「(ぱっと解答を見て)そうそうこの字」
私「この横のところ点々だった?」(最初はンのように点で書いていた)
祖母「いや、こうカギ書いた」
私「くさかんむりはここ離した?十、十、って書いた?それとも、真ん中あける形?」
祖母「この真ん中あけるのだった」

「遅」(解答を見ました)
祖母「どんな字だったかな」
私「この字だった?この字だった?」
祖母「うーん」
私「中、羊だった?」
祖母「羊だったような気がする。」
私「こんな字は書かなかった?」
祖母「分からない」
私「シンニョウはどうだった?」
祖母「点書いて、くねらしてこう。」
私「ここ、クネクネって曲げた?」
祖母「点かいて、曲げない字違うで、あれは略字で、点書いてクネクネしなあかんで」

「秘」
祖母「どんなんだった?」
私「こんな字じゃなかった?」
祖母「そうそう」
私「ここノギだった?示?」
祖母「ノギだった。」

「北」
祖母「北はこう」
私「ここ突き出なかった?」
祖母「いや、こう。」

「来」(解答見ました)
祖母「どんな字だったかな・・・・・・なんせ、ややこしかったように思う」
私「こんな字だった?」
祖母「いや、なんかもっと難しかったような……こんなんやったかもしれない」
私「ここに横棒あった?」
祖母「人書いて木やったように思う」



およそのところこのような感じです。
「昔のことだから覚えていない」とか「読めても書けない」と何度も言っておりました。

祖母が大変心配症なもので、「間違った字を書いたらどうしよう」とか言うもので、わからなかったら書かなくてもいいとは言ったんですが、
答を見せるよう言われたので、見せました。
ぐだぐだなものになってしまって申し訳ありません。

失礼いたします。


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翔平さんのおばあちゃんが習ったという字体を見ていきます。

〈衛〉一画多いですが,通用体です。文部省活字が通用体です。「ゴロイ」と覚えていたそうですから,一画多い字体をはっきりと覚えていたようです。これで思いついたのが〈「五」の一画目をなぜ略す〉です。

〈横〉通用体です。文部省活字が通用体です。

〈隠〉通用体です。文部省活字は正字体です。

〈会〉繁体の正字体です。文部省活字も繁体の正字体です。現在の「会」は略字体。

〈偽〉繁体の正字体ですが,手書きの筆画です。文部省活字も同様。

〈塩〉略字体です。文部省活字も同様。

〈恵〉正字体の手書き字体です。明朝体とは違います。文部省活字と同じ。

〈軽〉繁体の正字体です。文部省活字も同様。現在の「軽」は略字。

〈虚〉通用体の手書きの筆画を書いています。文部省活字とは違います。

〈撃〉正字体です。文部省活字も同様。

〈飲〉通用体の手書き字体です。文部省活字も同様。

〈関〉正字体です。文部省活字も同様。

〈状〉印刷字体特有の字体です。文部省活字も同様。

〈真〉正字体です。ただし,明朝体のように「ヒ」の二画目をはねていません。「ヒ」の後は下の「目」を書くから,上にはねると筆脈がつながりません。文部省活字も同様。

〈蔵〉印刷字体特有の字体です。文部省活字も同様。

〈遅〉通用体です。文部省活字とは違います。

〈秘〉通用体です。文部省活字とは違います。

〈北〉手書き字体です。文部省活字も同様。

〈来〉正字体です。文部省活字も同様。

字体は次の角度から見ました。

1)繁体字か略字か
2)手書きの筆画か印刷の筆画か
3)正字体か通用字体か

他に
4)書体による字体の差
があります。
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2010年03月26日

高岡重蔵さんに聞く「今井直一『書物と活字』」

先日(2010年3月19日),嘉瑞工房で高岡重蔵さんのお話を聞きました。
きっかけは拙著『文字の組み方』の参考資料に書いた次のような説明です。

今井直一『書物と活字』印刷学会出版部,1949
今読んでも得るものはたくさんある。図書館にあるかも。なお,府川充男『聚珍録』(三省堂)に
《『書物と活字』の内容は殆どルシアン・A・ルゴス Legos, Lucian Alphonse とジョン・C・グラント Grant, John Cameron の共著『Typographical Printing-Surfaces. / The Technology and Mechanism of Their Production』(〔英〕ロングマンス・グリーン商会 Longmans, Green, and Co.、1916年)の丸写しに等しいという。この点、片塩二朗氏の御教示による》
とある。


今井直一『書物と活字』はボクが20代の頃読んで,感激して全ページをコピーして手製本して保存してある本だ。拙著でも参考にしている。
ところがこの本には参考資料が掲載されていない(この本が出版されたのは昭和24年なのだが,その頃は参考資料を巻末に書き出す習慣がなかったらしい)。そのため,どんな本を参考にしたのかわからなかった。
拙著での説明も元は〈今読んでも得るものはたくさんある。図書館にあるかも。〉だけだった。ところが校了間際に,府川充男『聚珍録』(三省堂)の註四〇〇八に上記の記述を発見したので,『Typographical Printing-Surfaces. / The Technology and Mechanism of Their Production』が『書物と活字』の参考資料のひとつかもしれないという資料として引用した。

拙著の執筆にあたり,特に「欧文の本文組み」の章で色々とご教示をいただき,御著書の『欧文書体』(美術出版社)からも引用させていただいている小林章さんに拙著をお送りしたところ,上記の引用についてご指摘をいただいた。

〈小林章氏からのご指摘〉

1)著者のスペルは「Legos」ではなく「Legros」が正しい。
(これは引用時の誤りではなく,引用元の誤り)

2)「丸写し」というのは適切ではないのではないか。
(これは小林さんが1989年にロンドンの印刷博物館でレグロとグラントの原著を読んで、その後日本で今井氏の『書物と活字』を読んだ感想)

3)かつて嘉瑞工房の高岡重蔵氏が片塩二朗氏に今井直一『書物と活字』について話したことがあると聞いているが,どこかで誤解が生じたのではないか。


拙著を嘉瑞工房にお送りしたところ,高岡重蔵さんの息子さんの高岡昌生さんから,父が真実をお話したいと言っている,と連絡をいただき,お話を聞くことになった。

〈高岡重蔵さんのお話の要約〉

◆アメリカATF社製のオリジナルのベントン彫刻機は,日本には3台しかなかった。1台は大蔵省印刷局にあったが,官庁の為に、どういう使われ方をしていたのか一般には伝わらなかった。
2台目は築地活版製造所が持っていたが、倒産したために、このベントンは後にオークションで凸版印刷に渡ったといわれている。3台目のベントンは三省堂が持っていた。これが津上製作所による国産化したベントン式彫刻機の元になった。

◆今井直一はベントン彫刻機の発明者リン・ベントン(Linn Boyd Benton)から直接使用法を教わったただ一人の日本人なので,ベントン彫刻機の使い方の解説書の執筆者は今井直一以外には考えられなかった。

◆今井直一『書物と活字』はベントン氏から直接操作を教えてもらった知識に、『Typographical Printing-Surfaces―』の一部をあわせて日本人にわかりやすく書かれたものと考えてもいいだろう。

◆ベントンの使い方を解説するといっても,彫刻機そのものの使い方だけを解説しても役にたたない。彫刻に使うパターンの作り方も,パターンを作るための版下の書き方も書かなければならない。どう文字を設計したら良いかも書かなければならない。そのようなわけで,ああいう内容の本になった。

◆片塩二朗氏に上記の話とともに,『書物と活字』が『Typographical Printing-Surfaces. / The Technology and Mechanism of Their Production』を参考にしている,という意味のことを話したことがあるが,「丸写し」とは言っていない。数ある参考文献の中の一つである。

◆当時,レグロとグラントの『Typographical Printing-Surfaces―』は印刷業界では有名な本で,著者が来日したこともある。そのように有名な本であるから,丸写しなどをすればすぐにわかる。

◆『書物と活字』の中で『Typographical Printing-Surfaces―』を参考にしているところは「第四章 欧文の書体」だが,大部の本の内容を理解した上で必要なところだけを抽出し,かみ砕いて解説し,さらに必要なものを加えている。たとえば128ページの「第三十九図 ボッツフォード・ブック」などは『Typographical Printing-Surfaces―』に掲載されているものではなく,今井直一氏が解説のために加えたものである。

◆『書物と活字』が出版された時,私(高岡重蔵)は今井直一氏本人から一冊いただき,その際,「あなた(高岡重蔵)はよく勉強しているから、この本を読んですぐ分かるでしょう!」という言葉をいただいた。これは「ネタ本を秘密にしてね」という意味ではなく,「お褒めの言葉」と理解している。
誤解が通説として流布されることを危惧している。


      
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2010年03月08日

教育漢字についての私見(7)

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初唐の楷書では「令」の最終画はまっすぐのものが多いが,「マ」の形でも間違いではない。唐代の正字の「五経文字」や顔真卿,柳公権など正字を書く一派も同様。
「マ」の形にするのは行書に近い楷書の形だろうと思う。

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伝統的な楷書では「外」の最終画ははらう。教育漢字は行書の字体だと思う。

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「女」に2つの乳をつけたのが「母」だから,伝統的な楷書では「女」の2画目の「ノ」は最終画の「一」の上に出る。教育漢字は伝統的な楷書の字体と一致する。しかし出ても出なくても「女」に違いはないので,出ないから不正解とするのはいきすぎだろう。
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2010年03月07日

教育漢字 についての私見(6)

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学指導要領の上位規格の常用漢字表の前文でわざわざことわっているのだから,教師ははねる・はねないで採点することはあってはならない。

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伝統的な楷書と弘道軒清朝体の字体が同じなので,弘道軒清朝体を用いて表示した。
伝統的な楷書では酒の旁「酉」の縦線は曲げず,その代わりに横線が1本多くなる。

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伝統的な楷書では「木」の縦線ははねる。

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「木」を含む伝統的な楷書では「木」は「ホ」の形になる。左右に伸ばすのは1字に1箇所で,左右に伸ばす場所は多くの場合「木」ではないからである。
「案」の場合,左右に伸ばすのは「女」の横線。うかんむり,木の横線,木の左右のハライは左右に伸ばさずにガマンするのが伝統的な手書き文字の伝統。教育漢字の「案」は手書きの文字の手本には適していない。

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伝統的な楷書の「来」は常用漢字と同じ字体だが,縦線をはねることが多い。はねなくてももちろんかまわない。
手書きの楷書や行書で,いわゆる康煕字典体の字体を書くことは歴史的にはあまりない。
伝統的な楷書と弘道軒清朝体の字体が同じなので,弘道軒清朝体を用いて表示した。

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伝統的な楷書の「糸」は縦線をはねることが多い。はねなくてももちろんかまわない。「糸」は「絲」の代用字で本来は別の字。「絲」は常用漢字ではないので学参フォントにはない。伝統的な楷書は6つの点を4つに略す。弘道軒清朝体は初唐の楷書ではなく,王羲之の字体を参考にしているのかもしれない。

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伝統的な楷書では「うしへん」の縦線ももちろんはねる。はねなくても間違いではない。

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伝統的な楷書では「てへん」の縦線ももちろんはねる。はねなくても間違いではない。

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伝統的な楷書では縦線ははねないことが多いが,はねても間違いではない。伝統的な楷書では「口」は「ム」の形になることが多い。
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2010年03月05日

教育漢字についての私見(5)

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「保」の旁は「口」+「木」ではなく「子」に点がついたものだから,学校で教えている字が誤字である。「保」は片仮名「ホ」の元になった漢字だから,「木」ではおかしい。
教育漢字の字体は変更するべきだと思う。
図には示していないが,戦前の文部省活字の「保」の字体は伝統的な楷書と同じ字体だった。

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右ハライの部分は止めても払ってもどちらでも良い。

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ただし,右ハライは1字に1箇所までというのが書き文字の伝統なので「炎」のように右ハライになる箇所が2つある字は,上を止めて下をはらう。両方とも止めても良いが,両方をはらうのはまずい。教科書体のような「炎」は書き文字の伝統にはない。教育漢字の字体を変更するべきだと思う。伝統的な楷書と弘道軒清朝体の字体が同じなので,弘道軒清朝体を用いて表示した。

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「角」は伝統的な楷書では真ん中の縦線は下に突き抜ける。
以前,仕事で名刺を依頼された中に苗字に,真ん中の縦線を下に突き抜けた「角」を指示されたが,あれは手書きの字体が戸籍になったものだろう。明朝体やゴシック体では,手書きの字体を使う必要はない。
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2010年03月04日

教育漢字 についての私見(4)

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伝統的な手書きでは上部に使う「ノ」は左から右への横線になる。

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伝統的な楷書と弘道軒清朝体の字体が同じ場合は,弘道軒清朝体を用いて表示した。
伝統的な楷書では「いとへん」の下部は3つの点になる。
「会」は草書の字体だ。
学校では極端な略字ではなく繁体字を教えるべきだったと思う。
繁体字でも「いわゆる康煕字典体」と「伝統的な楷書」では「會」の字体が違う。
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2010年03月03日

豊島正之「前期キリシタン版の漢字活字に就て」



2009年8月29日,「『活字印刷の文化史』梓行記念セミナー」で行われた豊島教授の驚愕の講演,「用紙から見るキリシタン文献」の内容が論文として掲載されています。
文章で読んでも鳥肌が立ちました。
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オブリークとイタリック

拙著をご覧になった方から,オブリークとイタリックの違いがよくわからない,というご意見をいただいたので,もうちょっと詳しく見てみます。

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Optima Romanをシアーツールで11度変形させます。
正円(に見える)だったピリオド,「i」の点,コロンなどが楕円になります。
この楕円の傾きが「i」の傾きと一致していません。

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Optima ObliqueとOptima Romanをシアーツールで11度変形させたものはまったく同じです。
Italicと比べるとObliqueは「c」の形が不自然です。
Italicはピリオド,「i」の点,コロンなどが正円に見えます。しかもRomanよりも小ぶりです。

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同じようにAdobe Garamond Pro Romanをシアーツールで変形してみました。
楕円の傾きが「i」の傾きと一致していません。

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Adobe Garamond Pro Italicは「c」「i」の形がRomanとまったく違います。
ピリオドやコロンは楕円ですが,シアーツールで変形したものとは角度が違い,文字の傾きに合っています。
posted by トナン at 18:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 文字あれこれ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

教育漢字についての私見(3)

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伝統的な楷書と弘道軒清朝体の字体が同じ場合は,弘道軒清朝体を用いて表示した。
学参フォントでは「雨」の1画目の横線を短くしている。たしかに手書きでは「雨」の1画目の横線は短く書くが,明朝体でそうすると違う文字に見えてくるのはボクだけだろうか。
学参フォントの「戸」は右下の縦線の下への突き出しが短い。短いけど出ている。出ていないのならまだ理解できるが,短くすることに何の意味があるのだろう。
「無」は3本の横線のうち,一番下の横線を長くするのが伝統的な書き文字の形。教科書体みたいな形の書き文字はおかしい。
学校でどう教えているかどうかは知らないが,「無」の一般的な書き順は下記のとおり。

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2010年03月02日

教育漢字についての私見(2)

常用漢字表は学習指導要領の上位規格だから,学習指導要領で認めていなくても常用漢字表で認めているものは優先する。
たとえば常用漢字表の本表の前の解説(以下「前文」という)では「木」の縦線は止めてもハネても良いことになっているから,学習指導要領に示された教育漢字で「木」の縦線がたとえ止めてあったとしても,児童,生徒はハネて書いてもいっこうに構わない。教師は「木」の縦線をハネた字にバツをつけることは許されない。
常用漢字表の前文を見てみよう。

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画像でも読めると思うが,テキストに起こしておく。

第2 明朝体活字と筆写の楷書との関係について
 常用漢字表では,個々の漢字の字体(文字の骨組み)を,明朝体活字のうちの一種を例に用いて示した。このことは,これによって筆写の楷書における書き方の習慣を改めようとするものではない。字体としては同じであっても,明朝体活字(写真植字を含む。)の形と筆写の楷書の形との間には,いろいろな点で違いがある。それらは,印刷上と手書き上のそれぞれの習慣の相違に基づく表現の差と見るべきものである。以下,分類して例を示す。


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明朝体が手書きの字体をまねることによって,かえって違いがあやふやになっている。常用漢字表が違いを認めているのだから,違って良いのである。

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伝統的な行書や楷書では「北」の旁の1画目は左から右に書く。

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手書きの字には必ずしも筆押さえはついていない。明朝体の筆押さえは空中での筆の軌跡を図案化したもので,横線の右端にある三角形の「うろこ」と同様に明朝体の特色。

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学参フォントがビミョ〜に縦線を曲げているのを見るとなんだか切なくなってくる。
文部科学省の人,お願いです,教師や児童・生徒に「明朝体と手書きの字は違うのだ」ということを教えてください。それにはこの常用漢字表の前文を見せさえすれば良いのです。そうすればこんなトホホなフォントを作る必要も使う必要もないのです。

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しんにょうは「彳(テキ)」と「止」の合字で,「止」は略体になって横に伸びた。隷書のしんにょうを見ればわかるように3点だった。3つの点が「彳」である。
この3つの点の2つ目からつなげて書いたのが「1点でくねるしんにょう」でくねる部分が3つ目の点にあたる。3つの点の3つ目と「止」の略体をつなげたのが「2点でくねらないしんにょう」である。つまり「1点でくねるしんにょう」と「2点でくねらないしんにょう」は同じモノである。
しんにょうの点の数だけを数えるのではなく,くねるかくねらないかも一緒に見るべきだ。
当用漢字の「1点でくねらないしんにょう」は隷書のしんにょうと比べると1画足りないことになる。「2点でくねるしんにょう」というのもあるが,これは「止」の略体に楷書の起筆がついてこれが「くねり」になったものだろう。
posted by トナン at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 文字あれこれ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする